インサイド・ヒーローズ
vol.3
風土とともに呼吸する建築
ご来場いただくみなさまへ
一見、不思議な形に見えるテーマ館ですが、一つひとつの要素に自然の理が宿っています。上瀬谷の風土を読み解きながら導き出した、木造建築の新しい形。巨大な樹木に分け入るような感覚でこの建築をめぐり、この地の豊かな自然に溶け込む心地よさを、是非味わってみてください。
テーマ館デザイン監修に込めた思い
―今回のデザイン監修について、お声がかかったときはどのように感じられましたか。
荒木
こうした国際的な博覧会には、革新的な提案を受け入れてくれる土壌があります。新しいことや、チャレンジングなことが好きな人間として、このプロジェクトのお話をいただいたときは、純粋に胸が躍りました。
今回のテーマは、環境配慮型の新素材「CLT(直交集成板)」を駆使した、圧倒的なスケールの木造空間への挑戦です。設計図に描いた理想が、実寸大の建築になるまでしっかり見届けたい。そんな思いで、今も定期的に現場へ足を運んでいます。
植物の生存戦略に見る建築の知恵
―独創的な形状は、どのような発想から生まれたのでしょうか。
荒木
今回の建築は、まず「植物のような建築」や「生物としての建築」という発想からスタートしました。私自身、自然界の造形や仕組みには強く関心があり、子ども時代は片道1時間半の通学路を、森を観察しながら3時間かけて下校していたほどです。
そうした原体験や、東北復興支援プロジェクトで出会った「気仙大工」の知恵が、デザインの大きなヒントになりました。彼らの伝統的な技法には、屋根を支える「梁」を下から上へ向かって順に小さくし、上部を軽くしていく構造的な合理性があります。
重いものを下に、軽いものを上に配置することで、建物への負担を抑え、安定感を高める。この合理性を突き詰めた先に、太い幹から枝へと広がりながら軽やかになっていく、樹木本来の姿が浮かび上がってきました。

梁イメージ(下層は太く長く、上層ほど細く短くなる構造)
―地中のあり方にも独自の思想が込められているそうですね。
荒木
地面と建物をつなぐ「基礎」についても、植物の生き方に倣った工夫を凝らしています。一般的な建築では地面を全面的にコンクリートで覆うことが多いですが、今回は室内環境への影響がないエリアに限定して、基礎のボリュームを最小限に抑える形状としました。
資材の量を減らし環境負荷を抑えることはもちろんですが、それ以上に、土を地続きに残すことで、地中で根を張り巡らせ、養分を分かち合う植物のネットワークを、建築でも体現したいと考えたからです。あえてコンクリートを打たず、土がむき出しの場所を設ける試みは、前例がないゆえの難しさもありました。しかし、こうした細部へのこだわりが、真に心地よい空間を生むのだと信じています。

©KENGO KUMA & ASSOCIATES

©KENGO KUMA & ASSOCIATES
基礎イメージ(全面を覆う「ベタ基礎」と、今回の「布基礎」の比較)
―この建築を上瀬谷の風土に、どう調和させたのでしょうか。
荒木
根があり、そこから幹が立ち上がり、枝が広がっていく──それが樹木の基本的な姿です。しかし、その根がどう張り、枝がどちらへ伸びていくかを決めるのは、その土地固有の環境条件に他なりません。この建築も同じです。上瀬谷の地形、そこを流れる風、差し込む光。そうしたこの場所特有の環境条件を一つひとつ読み解いていった先に、自然とこの形が決まっていきました。
例えば、この敷地では風は南から北へと吹き抜けていくことが多いため、その流れに合わせて1段目の壁柱を川のように整え、空気がスムーズに通り抜けるルートを確保しています。さらに南側に植栽を施すことによって、蒸散作用で冷やされた空気の流れを作り出す自然冷房のような仕組みを構築しました。
無数の要因に対し、デザインで一つひとつ最適解を導き出す。その試行錯誤の過程は、上瀬谷という土地に合わせて自らの姿を最適化させていく、樹木の成長とも重なります。

©KENGO KUMA & ASSOCIATES
壁柱イメージ(南から北へ、風の道が川のように見える角度)
隈研吾建築都市設計事務所 設計室長
荒木海威
あらき・かい 2012年入所。以来、国内外の公共建築やパビリオンの設計を幅広く手掛ける。2027年国際園芸博覧会では、テーマ館のデザイン監修を担当。自然の理(ことわり)に耳を澄ませ、風土に溶け込む心地よい空間の創出に取り組んでいる。